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IR Report

2002年全米IR大会出席のご報告

2002年全米IR協議会年次大会に関するレポート
2002年6月3-5日

(1) 米国IRの潮流 - 定点観測としての年次大会

IRの先進国である米国では、ほとんどすべての公開会社がIR活動を重要な業務の一貫として日常の活動に組み込んでいる。日本のようにここ数年IR活動の重要性が急速に認識され、IR活動を活発化させる企業数が飛躍的に増えている国と異なり、IRにおいてはかなり成熟した市場であるといえよう。しかし、そのような米国であっても、全米IR協議会が開催する年次大会での主要なテーマを追っていくと、毎年大きな変化が起こっていることがわかる。2000年から現在までの過去3年間年次大会の推移を見ながら、米国IR活動の動向を分析してみよう。

2000年 - 市場コンセンサスのコントロール

ニューエコノミー・ブームの熱気がまだ冷めやらなかった2000年の年次大会では、インターネットなどのテクノロジーの発展によってIR活動がどのように変わっていったか、あるいは今後どう変化していくのかについて、高い関心が寄せられていた。また、株価が市場のコンセンサス(証券アナリストが予想する一株当たりの利益の平均値)と実際の数値の間の乖離によって大きく変動する状況を受けて、どのようにアナリストの期待値を事前にコントロールし、彼らの予想値を実際の数値に収束させていくことができるのか、多くの議論が交わされた。

2001年 - Regulation Fair Disclosureのもとでの情報開示

しかし、翌2001年には、2000年10月に施行されたRegulation Fair Disclosure(公平な情報開示に関する規制)のもとで、 そのようなアナリストに対する重要な情報の開示が不可能となったため、それにかわってどのような方法で市場参加者に情報を開示し、スムーズなIR活動を実施していくかについて様々な議論がなされた。周知のように、Regulation Fair Disclosureは、その趣旨には賛同者が多いものの、「重要な情報」の定義があいまいであるなど、IR担当者が実際のIR活動を行っていく上で多くの問題点を抱えていた。このようなIRを実践する上での困難や、その解決方法に関する議論に多くの時間が割かれた。

2002年 - エンロン後のIR

2002年に入ってもこれらの問題点の多くは未解決であるが、試行錯誤を重ねた結果実務上の経験が蓄積され、慣習らしきものができあがっていった。Regulation Fair Disclosureに関しては、ある程度消化されIR上の対応も落ち着きを取り戻しつつあるといえよう。しかし、その一方で、2001年後半のエンロン事件に端を発した企業経営や資本市場に対する不信感はとどまることなく急速に高まり、IRはもとより米国のシステム全体を揺るがす大問題に発展していった。エンロンに続いてタイコ 、ゼロックスなどの主要な大企業のスキャンダルが続いた。数の上ではそれらの問題企業が全体に占める割合はごくわずかであるが、それは氷山の一角に過ぎないのではないか、ほとんどの企業が同様に情報開示やコーポレートガバナンスの上で問題を抱えているのではないか、という市場の疑惑や不信感に、IR担当者は直接向き合わざるを得なくなっている。そのような状況の中、今年2002年の年次大会では、コーポレートガバナンスの問題が前面に出された。失われた信頼を回復するためにどのようなコーポレートガバナンスのあり方が望ましいのか、そのために各企業は、そしてIR担当者はどのような行動をとったらよいのか、活発に議論されることになった。

(2) コーポレートガバナンスとIR活動の一体化

コーポレートガバナンスと、企業の実際の業績や価値(株価)との関係に関しては、米国では今までも頻繁に論じられており、様々な研究や調査が実施されてきた。どの調査においても、コーポレートガバナンスの充実が企業業績や株価の上昇の直接的な要因であるとは、はっきり検証されてはいない。しかし、現在もしばしば引用されているマッキンゼー社の2000年の調査レポートにあるように、機関投資家はコーポレートガバナンスが優れている企業の株式に対してはプレミアムを払う、つまりよいコーポレートガバナンスを実践することは株価にプラスの影響がある、と一般に考えられていたIR活動の実務者にとっては、自社のガバナンス体制が優れていることを示すことで、より効果的なIR活動を行うことができた。

しかし、現在IR活動にとってコーポレートガバナンスは、単に重要というよりは、必要不可欠な要素となっている。これを端的に示しているのが、本大会の ”Corporate Governance – Renewed Focus on Board Selection and Governance Issues” のセッションで、ISS社のPatrick McGurn氏が述べた次の言葉であろう。

「現在起こっているのは、良いコーポレートガバナンスにより企業評価にプレミアムがつくという状況ではない。劣悪なコー ポレートガバナンスの企業の価値が、著しくディスカウントされている、という状況である。劣悪なコーポレートガバナンスの企業は、市場から罰せられているのである。」

端的に言えばガバナンスが不十分な企業は株価下落も(それ以上の事態も)覚悟しなくてはいけない、というメッセージである。ISS社では、顧客である機関投資家のために米国企業のコーポレートガバナンスに関する格付けを開始し、海外企業にもひろげていく予定であるという。ちなみに、6月14日のWall Street Journal誌では、企業債務の格付けを行っているMoody’s社も、今後は格付け決定の際に、取締役の独立性をはじめとしたコーポレートガバナンスの質により注目すると発表した。株価の上でも債券の格付けの上でもガバナンスが大きくクローズアップされているのである。

また、”Restoring Investor Confidence in the US Capital Markets”のセッションにおいては、法律家のAmy Goodman氏が、米国主要企業のCEOが構成する団体であるビジネスラウンドテーブルにより2002年5月に発表されたコーポレートガバナンス原則を紹介した。取締役会には通常3つの重要な委員会がある。財務状況を監査を行う監査委員会、CEOら上位経営陣の報酬を決定する報酬委員会、そして取締役や上位経営陣を任命する指名委員会である。しかしこのコーポレートガバナンス原則では、従来指名委員会と呼ばれていた委員会は、「コーポレートガバナンス委員会」という名前になっている。こ の委員会には、取締役の指名に加えて、コーポレートガバナンスの形成に関してリーダーシップをとるよう、より広い役割が期待されている。

今大会では、従来は関連しながらも若干の距離をおいていた、株式市場での評価とコーポレートガバナンス、IR活動とコーポレートガバナンスが、より密接に一体化する方向が示されたといえよう。

(3) 日本企業への影響

それでは、このような動きは日本企業にどのような影響を与えるのであろうか。米国と比べ日本では、株主に代わって経営者を監督する機能と業務の執行を行う機能が明確に分かれていない。商法改正に伴い取締役会の改革は少しずつ進んでいるが、 取締役会の独立性は不十分で株主の利益を代表しているとは言い難い。従来海外投資家は、そのような日本企業に対して批判的でありながらも、国の制度による差異をある程度は斟酌していた。しかし、今後その許容度は一層小さくなるものと思われる 。海外の投資家に接する際はこれらの点を意識した説明が必要となるであろう。

また、議決権行使においては、前述のISS社のような投資家にアドバイスを行っているプロクシーアドバイザリー会社の動きを注視する必要がある。ISS社は既に東京支社を設立しており、日本の機関投資家も顧客としている。当初は、日本の投資家の海外企業に対する議決権行使のアドバイスが主だったが、現在は、日本投資家の日本企業に対する議決権行使に関してもアドバイスをしている模様である。国内外を問わずコーポレートガバナンスの健全性をはっきり示す必要が高まっているといえよう。

以上

(2002年7月2日)

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