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古くて新しいテーマ…デットIRと空売りについて弊社代表取締役の10年前(92年作成)のレポートを掲載

欧米に遅れる日本企業の資金調達

「デットIR」が注目されていますが、弊社代表取締役岩田宜子は、すでに1992年、以下のレポートを「ダイヤモンド・ハーバードビジネス」に発表しておりました。また同じレポートには「空売り」の投資家についてもまとめてあります。現在でも役に立つ内容ではないでしょうか。今回はダイヤモンド社の承諾を得ましたので、ここにご案内いたします。どうぞご参照ください。

欧米に遅れる日本企業の資金調達
(ダイヤモンド ハーバード・ビジネス 92年11月号より)

8月末に発表された政府の総合経済対策によって、日経平均株価も少し落ち着きを取り戻しているかの感があるが、依然景気の先行きや金融システムに対する不安感は払拭されてはいない。

最近、日本企業によるスイス市場での起債が相次いでいるが、注意を要することがある。それは92年第2四半期(4~6月)のスイスマネーの日本向け資本輸出は前年同期比の88%の減となり、日本物離れが顕著なことである。もちろん、同時期の株価低迷や薄商い、さらにポリティカルな要因も重なったこともあるが、日本企業の財務体質の魅力のなさと相まって、日本企業の開催する会社・投資説明全が現地の投資家の不満を生んでいる。

例えば、「聞きたい情報を得ることができない」「将来の展望や経営方針が見えない」という不満である。これは、ターゲティング(訴求対象の選定)の欠如もしくは失敗、また、投資家やアナリストなどのファイナンシャル・コミュニティに関しての認識の少なさに起因している。言わば、「ターゲットを知る」というIR(インベスター・リレーションズ)の基本が実践されていないのである。

IRなる言葉が、まるで流行語のように語られている昨今であるが、これに伴った活動である会社・投資説明会があまりにも無策に催されているのが現状である。もちろん、日頃のおつきあいによる参加・引受も重要なパートであろうが、もう一歩踏み込んだ、長期的な視点を持った対投資家対策を練る時期が訪れているのではなかろうか。

長期的な視点を持ったIRの第一歩として「戦略的ターゲティング」が挙げられる。すなわち、株主はだれか、特に名義人の陰に隠れた真の株主を知ること。まず、自社の金融市場でのポジションを把握することである。同時に機関投資家の投資パターンやファンドのスタイルを知って、ターゲットを絞り込んでいく。次に、どのような情報をディスクローズ(情報開示)していくかを決定していく。この過程を踏めば結果的に効果的で経済的なIR活動をすることになり、またその成果を測定することも可能となる。

6月にサンフランシスコで催されたNIRI (National Investor Relations Institute/全米IR協会)の会議においても、この「ターゲティング」と「ディスクローズ」の2つのテーマに絞られた。ここで日本のIRに目をむけたとき、まずターゲティングについては、デットホルダー(債券保有者)へのアプローチが課題と言える。そしてディスクロジャーについては、アメリカの事例に習う必要性があるだろう。

軽視されるデットIR
Stock Analysts want Hope.
Bond Analysts want Assurance.

これは、日系証券会社に籍を置くO・アデルマン氏による表現であるが、端的に株式アナリストと債券アナリストの違いを表わしている。すなわち、株式アナリストは利益・成長などの見込みを重視し、債券アナリストは安全な保証を求めるということだが、前者はただ単に右上がりの株式市場を望んでいるだけで、後者はより堅実でしっかり地に足がついた分析をしているといった、多少の皮肉を込めた言葉であると思う。また、両者の違いの根拠は、債券投資は株式投資と違って利益配分の多様性はなく、市場においてもその規模や私募債のような債券もあることから、流動性も比較的低いことにある。

また、同氏は、会社やその株の人気がいまひとつで、しかも増資しようとしてさらなる株価低迷のきっかけを作ってしまう危険があるとき、企業は債券を発行しようとする事実に注目すべきである、と述べている。なぜ、その株式が低迷しているのか、また、なぜ、増資をしなければならないのか、それに対して長期的なビジョンを経営陣が持っているのだろうかといった、厳しい、しかも詳細な財務分析や経営分析を要求されるのが債券アナリストであるというのである。

IR担当者は、債券アナリストに対してどのようにディスクロージャーを進めればよいか。基本的には、株式アナリストと同じアプローチでよい。しかし、忘れてならないのは、債券アナリストにとって重要なファクターは、資産の発生要因や資本構成、金利あるいは元本自体を賄える体力について示す、固定金利支払いのカバレッジとキャッシュフローである。ここ何年か、債券専門アナリストの数は増えてきているが、債券投資は、安定した、退屈な、堅い投資というイメージが依然と、そして確実に存在している。しかしながら、債券を発行する企業数も増え、それに伴い、クレジットリスクも増大している。大量のワラント債の償還期を控えている。日本企業は、株式担当アナリストと債券アナリストの差異を理解したうえで、それぞれに合わせたIR活動を行っていくことが必要であり、今後の効果的な資金調達のため戦略ともいえる。

また、アニュアル・リポート、ファクト・ブックなども株式アナリストと比較して、債券アナリストヘの配布が滞りなくなされてはいないようである。IR担当者が留意すべき1つであろう。

ディスクロージャーへの指針

日本人から見ると、アメリカ企業のディスクロージャーはIR活動として有効に作用し、厳しいSEC基準も十二分にクリアしているかに見える。また、ともすると正義感に満ちたボーイスカウト的な精神的心構えが必要なのではと錯覚してしまう。だが実際には、神経質に、また、批判しながらもその責任に耐えているようである。しかも、それぞれのアプローチヘの細かいディスクロージャーがなされているようである。特に興味深いアプローチ方法を紹介する。

まず、バイサイド・アナリストヘのディスクロージャーだが、タイムリーでうまく文章化された発表が好ましい。またわかりやすい財務報告、長期的な戦略も示すことが必要である。彼らの判断材料となる情報を流すばかりでなく、長期的な信頼を得るためにも企業の情報照会先を集中させ、IRに対する意気込みを示すとよい。小手先でアナリストの信頼を得ようとするのは、虫がよいというものである。

ところで、カラ売り専門という投資家が存在するが、はたして彼らへのディスクロージャーも今後考慮しなければならないのかという議論がある。カラ売り専門家はとかく、市場の批判の対象になる。ただ単に利益創出のため巧妙に売買しているにすぎない。あまり神経質になることはないのかもしれない。しかし、彼らはディスクロージャーのうまくできていない企業を探し出し、カラ売りの対象選択の規準としているので要注意である。また、彼らは、「カラ売り投資家を気にかける企業こそが最高のカラ売り対象銘柄となる」と明言していることにも気をつけなければなるまい。

最後に忘れてはならないのが、メディアヘのディスクロージャーである。不十分に情報が流れるとその確認のためやもっと新しい情報を取りに、記者はライバル会社に走ることになるのである。結果的に24時間以内にウォール・ストリート・ジャーナルをはじめとする各紙によって大勢の知るところとなり、株価が下がるということになってしまう。メディアヘの対応もIR活動には避けては通れないことを、日本企業ももっと認識すべき必要がある。

また、効果的なディスクロージャーについて、以下のことが前述のNIRIの会議でまとめられた。

  • 真実を述べ、悪いニュースは早く流す。
  • 全体の真のストーリーを語る。
  • すべての発表内容、分析リポート、新聞発表等を1つに束ね、自社がどの方向に進んでいるのか理解しやすいようにする。
  • IRの専門全社をうまく利用・活用し、彼らを信用する。
  • どんなことでもとにかく市場を驚かせないこと。そのためには休日を巧みに使うことも必要である。
  • MD&A (経営方針並びに財務分析の報告)がSECをはじめ、ますます注目されそうなので注意を要する。
  • 定期的に金融市場での企業自体の認知度や好感度調査や株主調査をすべきである。その結果、別の面からのアプローチが必要だということや、何が要求されているかがわかったりするものである。

これらは、アメリカのケースであるが十分に日本企業にも応用できる。特に注目したいのは定期的に株主・認知度調査 (Shareholder Identification Research) を行うことである。我々、xxx(ジェイ・ユーラス注:筆者の当時勤務していた会社名が記載されていた。ここでは削除した)の最近の調査によると、この株主・認知度調査は今後のIRプログラムの指針になるばかりでなく、IR担当者が経営陣にIRの重要性を再確認させるためのデータにもなるという、予想外の効果ももたらしている。

日本のIRは新しい局面にきている。従来のアプローチのままではスイスの投資家のみならず世界各国の投資家たちから見放されるばかりか、モノ・サービスの面でリードしていた日本企業も、資金調達の面で世界から取り’残される危険すらある。

以上

(2003年11月19日)

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